なんて不毛な、それでも恋

 僕の友達は、王子様に恋をしていた。
 王子様のお忍びの馬車に轢かれそうになったが、すんでのところで助かり、王子様にお言葉を賜ったらしい。
 嘘かほんとかはわからないけど、そんなことで王子様を好きになったって、叶いやしないんだ。
 平民と王子様との恋なんて、あるわけがない。

 それでも、僕の友達は、たくさん勉強して、どこで見つけたかわからない貴族様に目をかけてもらって、学校に行くことになったらしい。
 学校なんて、僕には行けない。
 勉強なんて、したことない。

 でも君は、僕を振り切って王子様を追いかけに行った。
 君は僕に、さよならも言わなかったし、言わせてくれなかった。僕のことなんて、忘れてしまったんだろう。

 少しでも君に近づきたくて、学校に食料を運ぶ仕事をした。
 貴族様だらけの学校だというのに、聴こえてくるのは君のことばかり。

 今日は公爵令息に手を触れた。

 今日は王子様と抱き合った。

 今日は伯爵令息と手をつないだ。

 今日は侯爵令息と二人きりで話をした。

 どれもこれも男との噂。


 でも、ほかにもあった。


 公爵令嬢様が平民上がりに手を下した。

 手を下した、ということがどんなことなのかはわからないけど、きっと君に悪意を向けたことだろう。

 君のことが心配でならない。

 ある日、たくさんの食材を納めに行く日があった。
 何かわからないけど、重要なことがあるらしい。そして、人手が足りていないらしい。

 僕は平民だけど、裏の裏の裏側の、マナーなんて必要のない雑用をさせてもらえることになった。

 君に会えるかも知れない。喜び勇んで現場に行った。

 しばらくすると、大きな声が聞こえた。

「君とは婚約を破棄させてもらう!」

 君と王子様が並び、一人の少女にたたみかけた。
 どうやら君は、王子様との恋を成就させたらしい。


 僕は君と王子様がくっついて欲しくなかった。
 平民なんて道に転がった石と同じ。
 どうせ飽きて捨てられる。

 僕は君と、恋がしたかったよ。

 どうせ王子様がだいすきな、君には届かない。


 なんて不毛な、それでも恋。

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