確かに恋だった

 僕には、幼馴染がいた
 隣の家の、ママの友達の子供。
 綺麗な黒い髪に、キラキラした瞳。
 僕はあの子が大好きだった。
 ある日、あの子は言った。

「ごめんね、私、遠くに引っ越すの」
「遠く?」
「うん。もう、会えないと思う」

 寂しそうに彼女は笑った。

 どうして遠くに引っ越すのかがわからない。
わからなくて、ママに訪ねた。

「どうしてあの子は遠くに行っちゃうの?」

 ママは答えなかった。曖昧に微笑むだけで。


 考えた。あの子がどこにもいかなくて済むように。

 考えた。どうしたらずっと一緒にいられるのか。

 考えて、たくさん考えたけど答えは出ない。

 答えは出ないまま、遠くに行ってしまう日が来た。


「またね」

 あの子はそれだけ言って、去ろうとした。

 僕はどうしても離れられなくて、すがりついたけど、それでもあの子は止まってくれなかった。

 行ってしまった。


 サラサラの、黒くて長い髪が好きだった。
 可愛い笑顔が好きだった。
 僕が転んだら手を差し伸べてくれる優しさが好きだった。
 いつか見た、鋭いひとみが好きだった。


 それは、確かに恋だった。

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