第一章 ―― 14

 夜になり、3人はルナレイアの部屋に集まった。侍女としてリサもいる。
 ルナレイアとレイは白のネグリジェ、ラナリーはピンクのネグリジェを着ている。

「ルナレイア、レイ、かわいい」
「ありがとう。ラナリーもかわいいわよ」

 3人でベッドに横になり、話すことにした。キングサイズのベッドなので、3人で並んでも余裕がある。

「ね、レイ」
「なに?」

 呼ばれてレイは、顔を上げた。まだ遅い時間ではないが、眠そうな顔をしている。

「レイは、ユスティのことが好きなんだよね? どんなとこが好き?」
「やさしいところ。ちゃんとほめてくれるところ。あたまをなでてくれること。手をつないでくれるところ。ちゃんとみていてくれるとこ。聖女としてじゃなくて、わたしをみてくれる。笑ってくれるとこ。たまにシドおにーちゃんとも一緒に来て、あそんでくれるとこ。外の世界のことをお話してくれるところ」
「たくさんあるね。そんなにユスティのことが好きなの?」
「うん。わたしは、ユスティおにーちゃんのお嫁さんになって、ずっと一緒にいるの」

 そう言ったレイは、電池が切れたように眠った。初めて教会と巡礼以外の場所に行って、疲れたのだろう。

「寝ちゃった」
「そうね」
「かわいいね」

 それに対してはルナレイアは無言を貫いた。自分のことをかわいいと言っているように聞こえるからだ。

「じゃあ、次はルナレイアね。ルナレイアの好きな人のこと、教えて」
「ラナリーじゃないの?」
「あたしのことは今はいいの。先に教えて」

 しかたないわね、と、ルナレイアは呟いた。

「わたくしの好きな方は、勇者さまよ」
「勇者様?」
「ええ、もうひとつの世界の、勇者さま。この国の国王さまと、同じ顔をした、ひと」

 ルナレイアは顔を伏せた。思い出すと、まだつらい。戻れるか戻れないかはわからないが、あの人のことが好きなのは確か。でも今は、心が揺られている。

「じゃあ、フォルカ様が好きってこと?」
「この世界のフォルカさまが好きなんじゃないわ。わたくしが好きなのは、わたくしの勇者さまだけ。でも……」

 でも? と、ラナリーは言った。どうかしたの、とも。

「最近ね、ユスティさまのことが気になり始めているの。どうしてだかわからない。美しいと言われたせいなのか、もっとほかの理由があるのか。リサがユスティさまの婚約者になるかもしれないと思うと、胸が痛いの。それから、シドさまも」
「シドも? というか、敬称ついてるわよ」
「忘れていたわ。シド……も、なんだか気が合うの。話していて楽しいし、綺麗な顔を見ると癒される。どうして2人も気になる人ができてしまったのかしら。わたくしは、こんなに気が多い女ではなかったのに」

 どうしてだろう、と、ルナレイアは考える。勇者さまを好きな気持ちは、確かにここにある。それでも、ユスティとシドを想う気持ちが育っているのは確かなのだ。

「それはさ、勇者様に対する思いが刷り込みだったからじゃないの?」
「どういうこと?」
「ルナレイアにとって勇者様って、同年代で初めて会った男なんじゃない? それで、優しくされて、好きになっちゃったんだよ」

 そうかもしれない、とルナレイアは思った。でも。

「でも、それなら賢者さまを好きになる可能性だってあるわ。でもわたくし、あの方のことはなんとも思っていなかった」
「そうなの? 賢者様とやらは、ルナレイアにそっけない態度でもとったんじゃない?」
「……考えてみれば、そうかもしれないわ。賢者さまは、わたくしのことはどうでもよさそうに、話をしていたもの。じゃあやっぱり、刷り込みなのかしら」

 そう考えれば考えるほど、そうかもしれないという気がして、楽になっていく。ルナレイアはもう、刷り込みに違いないと思い始めてきた。

「じゃあ、今わたくしが2人も好きになってしまったことに、理由はあるのかしら」
「それはもう、2人とも格好いいからね。仕方ないよ。大丈夫、ルナレイアは、普通の女の子だよ」
「ラナリー……」

 ずっと、聖女として育てられた自分は、普通の人ではないのだと思っていた。普通に恋をして、結婚して、子を産む……。そんな“普通”は、自分には訪れることなどない、と、そう思っていた。
 あの日、魔王が発生したその日から、ルナレイアの人生は変わった。外にも出られるようになった。魔王には、別世界に転移などなければ、感謝してもしきれないくらいだった。

「ありがとう。ラナリー。わたくし、少しだけ自信が持てたわ。と言っても、自分の気持ちが本物なのかまだわからないから、この気持ちには一旦蓋をするつもりだけれど」
「それがいいね、変に期待させてもよくないし」
「そうね、ありがとう。相談に乗ってくれて」
「相談? あたしはただ、恋の話がしたかっただけよ」

 そう言って、ラナリーは微笑んだ。女3人の夜は、こうして更けていくのであった。

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