第一章 ―― 13

 ぞろぞろと歩き、教会に着いた一行は、まず大神官に会い、そのあとレイに会いに行った。

「なにしにきたの」

 レイは開口一番、ルナレイアを睨みつけ、そう言った。

「あのね、レイ」

 まずユスティが口を開き、説得をはじめた。

「ユスティおにーちゃん? どうしたの?」
「魔王が出たことって、知ってる?」
「うん、大神官のおじさんが、そんなこといってた」

 それでね、と話を続ける。

「今度、僕たちがその魔王を討伐することになったんだ。明後日から、僕たちは旅に出る」
「どうして? どうしてユスティおにーちゃんが、そんなことをするの? わたしもいく」
「自分で言うのもなんだけど、僕は強いからね。僕と、ルナレイアと、剣士のラナリー、それから、近衛騎士団副団長のシド。この4人で行く予定なんだけど、レイも一緒に行く?」
「ルナレイアはきらいだけど、ユスティおにーちゃんとシドおにーちゃんがいるならいく」

 ユスティとルナレイアは苦笑した。

「そっか、一緒に頑張ろうね。仲間になるんだから、みんなに自己紹介しよっか」
「わかった。わたしの名前はレイ。教会の聖女。スラム街でそだったから、名字はないしおやもいない。しょうらいの夢はユスティおにーちゃんのお嫁さんになること。よろしく」

「よろしくね、レイ」
「ルナレイアにはよろしくしない」
「レイ、ルナレイアは聖女の先輩だから、光魔法を教えてもらわないと」

 レイは、ようやく気づいたとでも言うように、ルナレイアを上から下まで眺めた。

「ルナレイア、同じ色」
「ええ、わたくしも、聖女よ」
「聖女しか使えないひかり魔法と、しんせい魔法、教えて」
「もちろん」

 同じ色をしたふたりは、笑いあった。レイの表情はあまりなく、付き合いの長いユスティにしかわからない程度だったが。

「レイ……でいいのかな、よろしくね。あたしはラナリー」
「よろしく。ラナリーも、目、同じ色」
「ああ、この目ね。でも、光魔法は使えないの。土なら使えるんだけど」

 ラナリーはなぜだか、悲しそうに微笑んだ。

「レイ、これからよろしくな」
「シドおにーちゃん、よろしく」

 レイとシドは、面識があるようだ。シドにもよく懐いている。

「さて、5人揃ったところで、なにかする?」
「なにか?」

 ユスティが突拍子もないことを言いだした。

「ほら、歓迎会というか、なんというか」
「だが、ルナレイアはともかく、ラナリーとレイは酒が飲めないだろう」

 うーん、と、考え込むユスティとシド。

「じゃあ、お泊まり会しようよ! ルナレイアと、あたしとレイの3人で!」
「そこには僕たちは入れてくれないの?」
「もちろんっ。男は男でお泊まり会してくださーい」

 ユスティは苦笑した。男同士でお泊まり会など、面白くない。いや、久しぶりにフォルカも交えて、酒を飲み交わすのも、悪くない。

「残念。じゃあ僕はシドとフォルカとお酒でも飲もうかな」
「聞いてないぞ?」
「うん、今決めたから」

 シドは驚き、ラナリーは地団駄を踏んだ。

「陛下に会える機会を逃すなんて……!」
「え、まだ会ったことないの?」
「あるけど会えるなら会いたいもん!」

 駄々をこねるラナリー。こういうところは、やはり子供だ。

「まあまあ、そのうち会えるからさ」
「本当!?」
「たぶん、きっとね。帰ってきたら絶対会えるじゃないか」
「帰ってくるまでが長いんだよー!!」

 ばかー! と、ラナリーは騒いだ。確かに、魔王を討伐する旅、ルナレイアの旅は、2年続いた。今回の旅がどのくらい続くのかは、わからない。だが、1年はきっと続くのだろう。いろいろな町、村を回りながら、魔王の本拠地を探すのだから。そして、全員が欠けることなく帰れるとは限らないのだから。

「ユスティおにーちゃんはばかじゃない」
「あ、うん、ごめんね。冗談だよ」
「そう。ならいい」

 レイのつっこみに、少し頭を冷やされたラナリー。

「でも、お泊まり会の件は冗談じゃないから、今日やろうね」
「どうして? 必要ない」
「あたしがやりたいんだ。だめかな?」

 ラナリーは首をかしげて、レイの瞳を見た。金の瞳が、見つめ合った。

「わかった」

 根負けしたのか、レイは頷いた。

「やった。じゃあ、いろいろ話そうね。親睦も深められたら嬉しいし」

 にこにこして、レイを見つめる。レイはそれを見て、何を思ったのか。

「そういえば、今日のこのあとのこと、考えてなかったけど、どうする?」
「あたしたち女の子はお泊まり会!」
「では、わたくしが借りているお部屋で、お泊まり会をしましょう」

 わいわいとおしゃべりをするルナレイアとラナリー。お泊まり会のことが楽しみで仕方ないらしい。

「じゃあ僕は、陛下にお誘いでもしに行こうかな。シドも行く?」
「いや、私はルナレイアたちの護衛をしよう。お前は必要ないだろう」
「必要ないけどさ。心配とかしてくれてもいいのに」

 ブツブツと文句を言うユスティ。言いながら、陛下のもとへ向かった。

「わたしは荷物をまとめてくる」
「うん、待ってるね」

 荷物をまとめはじめるレイ。ちいさな手で、せっせと袋に服などを詰める。魔法には杖は必要ないので持たない。

「終わったら、大神官さまに聖水をいただきに行きましょうか」
「そうね、ルナレイアとレイに必要だもの」
「さきにいってていい。わたしはあとからいく」
「わかった。じゃあ先に行くね」

 ルナレイアとラナリーが大神官のもとへ向かう。シドはレイの護衛のために、その場に残った。

「シドおにーちゃんも行けばよかったのに」
「お前をここに残していけん。危ないからな」
「べつに、ここ危なくないよ。ちゃんと神官さまもいるし」

 シドが周りを見回すと、誰もいなかった。だが、気配を探ると、確かにいる。天井裏と、扉のあたりに。暗殺者かなにかか、と思ってしまった。

「だが、見えるところにいるのといないのとでは変わるんだ」
「そういうものなの?」
「そうだ」

 レイとシドは、口数が少ない者同士で気が合うのか、こうして言葉少なくも一緒に過ごすことが何度かあった。聖女であるレイが教会の外の人物に会えるのは、どうしてだかユスティとシドのみだ。

「おわり」
「そうか」

 シドはレイと手をつなぎ、ラナリーとルナレイアを追うため、大神官のもとへ向かうことにした。
 その姿はさながら親子のようであった。

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