ぞろぞろと歩き、教会に着いた一行は、まず大神官に会い、そのあとレイに会いに行った。
「なにしにきたの」
レイは開口一番、ルナレイアを睨みつけ、そう言った。
「あのね、レイ」
まずユスティが口を開き、説得をはじめた。
「ユスティおにーちゃん? どうしたの?」
「魔王が出たことって、知ってる?」
「うん、大神官のおじさんが、そんなこといってた」
それでね、と話を続ける。
「今度、僕たちがその魔王を討伐することになったんだ。明後日から、僕たちは旅に出る」
「どうして? どうしてユスティおにーちゃんが、そんなことをするの? わたしもいく」
「自分で言うのもなんだけど、僕は強いからね。僕と、ルナレイアと、剣士のラナリー、それから、近衛騎士団副団長のシド。この4人で行く予定なんだけど、レイも一緒に行く?」
「ルナレイアはきらいだけど、ユスティおにーちゃんとシドおにーちゃんがいるならいく」
ユスティとルナレイアは苦笑した。
「そっか、一緒に頑張ろうね。仲間になるんだから、みんなに自己紹介しよっか」
「わかった。わたしの名前はレイ。教会の聖女。スラム街でそだったから、名字はないしおやもいない。しょうらいの夢はユスティおにーちゃんのお嫁さんになること。よろしく」
「よろしくね、レイ」
「ルナレイアにはよろしくしない」
「レイ、ルナレイアは聖女の先輩だから、光魔法を教えてもらわないと」
レイは、ようやく気づいたとでも言うように、ルナレイアを上から下まで眺めた。
「ルナレイア、同じ色」
「ええ、わたくしも、聖女よ」
「聖女しか使えないひかり魔法と、しんせい魔法、教えて」
「もちろん」
同じ色をしたふたりは、笑いあった。レイの表情はあまりなく、付き合いの長いユスティにしかわからない程度だったが。
「レイ……でいいのかな、よろしくね。あたしはラナリー」
「よろしく。ラナリーも、目、同じ色」
「ああ、この目ね。でも、光魔法は使えないの。土なら使えるんだけど」
ラナリーはなぜだか、悲しそうに微笑んだ。
「レイ、これからよろしくな」
「シドおにーちゃん、よろしく」
レイとシドは、面識があるようだ。シドにもよく懐いている。
「さて、5人揃ったところで、なにかする?」
「なにか?」
ユスティが突拍子もないことを言いだした。
「ほら、歓迎会というか、なんというか」
「だが、ルナレイアはともかく、ラナリーとレイは酒が飲めないだろう」
うーん、と、考え込むユスティとシド。
「じゃあ、お泊まり会しようよ! ルナレイアと、あたしとレイの3人で!」
「そこには僕たちは入れてくれないの?」
「もちろんっ。男は男でお泊まり会してくださーい」
ユスティは苦笑した。男同士でお泊まり会など、面白くない。いや、久しぶりにフォルカも交えて、酒を飲み交わすのも、悪くない。
「残念。じゃあ僕はシドとフォルカとお酒でも飲もうかな」
「聞いてないぞ?」
「うん、今決めたから」
シドは驚き、ラナリーは地団駄を踏んだ。
「陛下に会える機会を逃すなんて……!」
「え、まだ会ったことないの?」
「あるけど会えるなら会いたいもん!」
駄々をこねるラナリー。こういうところは、やはり子供だ。
「まあまあ、そのうち会えるからさ」
「本当!?」
「たぶん、きっとね。帰ってきたら絶対会えるじゃないか」
「帰ってくるまでが長いんだよー!!」
ばかー! と、ラナリーは騒いだ。確かに、魔王を討伐する旅、ルナレイアの旅は、2年続いた。今回の旅がどのくらい続くのかは、わからない。だが、1年はきっと続くのだろう。いろいろな町、村を回りながら、魔王の本拠地を探すのだから。そして、全員が欠けることなく帰れるとは限らないのだから。
「ユスティおにーちゃんはばかじゃない」
「あ、うん、ごめんね。冗談だよ」
「そう。ならいい」
レイのつっこみに、少し頭を冷やされたラナリー。
「でも、お泊まり会の件は冗談じゃないから、今日やろうね」
「どうして? 必要ない」
「あたしがやりたいんだ。だめかな?」
ラナリーは首をかしげて、レイの瞳を見た。金の瞳が、見つめ合った。
「わかった」
根負けしたのか、レイは頷いた。
「やった。じゃあ、いろいろ話そうね。親睦も深められたら嬉しいし」
にこにこして、レイを見つめる。レイはそれを見て、何を思ったのか。
「そういえば、今日のこのあとのこと、考えてなかったけど、どうする?」
「あたしたち女の子はお泊まり会!」
「では、わたくしが借りているお部屋で、お泊まり会をしましょう」
わいわいとおしゃべりをするルナレイアとラナリー。お泊まり会のことが楽しみで仕方ないらしい。
「じゃあ僕は、陛下にお誘いでもしに行こうかな。シドも行く?」
「いや、私はルナレイアたちの護衛をしよう。お前は必要ないだろう」
「必要ないけどさ。心配とかしてくれてもいいのに」
ブツブツと文句を言うユスティ。言いながら、陛下のもとへ向かった。
「わたしは荷物をまとめてくる」
「うん、待ってるね」
荷物をまとめはじめるレイ。ちいさな手で、せっせと袋に服などを詰める。魔法には杖は必要ないので持たない。
「終わったら、大神官さまに聖水をいただきに行きましょうか」
「そうね、ルナレイアとレイに必要だもの」
「さきにいってていい。わたしはあとからいく」
「わかった。じゃあ先に行くね」
ルナレイアとラナリーが大神官のもとへ向かう。シドはレイの護衛のために、その場に残った。
「シドおにーちゃんも行けばよかったのに」
「お前をここに残していけん。危ないからな」
「べつに、ここ危なくないよ。ちゃんと神官さまもいるし」
シドが周りを見回すと、誰もいなかった。だが、気配を探ると、確かにいる。天井裏と、扉のあたりに。暗殺者かなにかか、と思ってしまった。
「だが、見えるところにいるのといないのとでは変わるんだ」
「そういうものなの?」
「そうだ」
レイとシドは、口数が少ない者同士で気が合うのか、こうして言葉少なくも一緒に過ごすことが何度かあった。聖女であるレイが教会の外の人物に会えるのは、どうしてだかユスティとシドのみだ。
「おわり」
「そうか」
シドはレイと手をつなぎ、ラナリーとルナレイアを追うため、大神官のもとへ向かうことにした。
その姿はさながら親子のようであった。