「この戦いが終わったら、結婚しよう」
勇者は、思いの丈を聖女に打ち明けた。今宵は魔王を討伐する前夜である。
「はい。お慕いしております。勇者さま」
魔王を倒したあと、勇者と魔王が結ばれることは決まっていた。だが、正式にプロポーズをしたわけではなかったので、今言ったのだ。
ふたりは同じテントで休んだ。ほかにあとふたりの仲間がいたが、今の勇者と聖女には見えていない。
これが、ふたりが過ごす最後の夜になった。
勇者たちは魔王の城を進んでいく。
時折強力な魔物も出現したが、勇者たちの相手にはならなかった。
そうして勇者たちは魔王の間にたどり着いた。
魔王と勇者たちは対峙し、戦闘を始めた。
己の持つ聖剣を巧みに使い、魔王を追い詰めていく勇者。魔王と斬り合い、傷を負いもするが、すかさず聖女がその傷を癒した。
そうして魔王は虫の息となった。
「これで終わりだ!」
最後の一撃で勇者は魔王を倒し、世界は平和になる。
そのはずだった。
「そう……やすやすと、くたばって、たまるか……」
魔王はもはや虫の息、だというのに、最後の力を振り絞り、勇者を道連れにしようとしたのか、賢者は強大な魔力の流れを感知した。
「危険です、勇者様!」
「なに!? そんな魔力があるはずがない……!」
「お前を殺すことはできずとも、道連れに、してやる……」
魔王の最後の魔力の波動が、勇者に向けられた。
勇者はそこで、魔王に連れて行かれるはずだった。
だが。
「そんなこと、させません!!!」
聖女が、勇者の前に飛び出した。
「くそ! だが、お前だけでも……!」
魔王が放った闇の魔力が溢れ、収まった頃には。
――――聖女と魔王は、消えていた。
「なぜ! どうして! 消えるなら俺で良かっただろう! どうしてお前が俺を庇う! ルナレイア!!」
勇者の慟哭は、空に消えた。