冒険者ギルドから出たルナレイアたちは、食料の調達のため、食べ物を売っている区域に来た。屋台なども出ていて、とてもいい匂いがする。
「いいにおい」
「おなかがすいてくるわ。ふたりとも、なにか食べる?」
「いいね、肉の串焼きがおすすめだよ」
「おにくにがて」
まあそう言わずに、とラナリーは目に付いた串焼きの屋台で、串焼きを2本買った。1本がラナリーのぶんで、もう1本はルナレイアとレイのぶんだろう。ふたりとも肉はあまり好きではない。
「ふたりで1本でいいでしょ?」
「ええ、構わないわ。レイ、先に食べる?」
「食べる」
レイは少し嫌そうな顔をしながら、串焼きを食べた。
「まずくはない」
レイが食べた肉は、いままで生臭いものが多かった。そのせいで苦手意識があった。だが、これはそこまで生臭くはない。少しだけ気に入った。
「そうね、おいしいわ」
「ルナレイアは普通に食べれるんだよね、お肉」
「ええ、好んでは食べないけれど」
「あるきながら食べるの、新鮮。こんなこと、いままでしたことない」
不思議そうに肉を食べながら、歩く。
「おいしかった。あの串焼き、たくさん買わない?」
「だめよ、包むものがないもの。ユスティとシドのぶんを買うくらいなら問題ないけど、たくさんはだめ」
「そっか、残念」
本当に残念そうな顔をするラナリー。そんなに美味しかったのだろうか、あの串焼きは。
「とりあえず、野菜をたくさん買うのよ」
ルナレイアは呟いた。
「それ、ルナレイアの好みが振り切ってるよね!?」
理解し難くて、理解はできるが納得し難くて、ラナリーは叫んだ。
それもお構いなく、ルナレイアは野菜をたくさん買い始めた。やさいが一番、と、レイも同意した。
キャベツに似たルシュ、トマトに似たラト、トマトに似たカーリ、たくさん買い、銀貨10枚も使ってしまった。
「そんなに買ってどうするのよ」
「食べるに決まってるじゃない」
当たり前でしょう? とラナリーを見るルナレイア。
「はあ、とりあえず野菜はいいから、調味料とかお肉を買いましょう」
「お肉は現地調達でいいんじゃない? みんな強いから、たくさん狩ってくれるでしょう」
「それもそうね、次は調味料でも買いましょう」
調味料とはいえ、塩と胡椒くらいしか買うものはないが、欠かしてしまってはいけないだろう。そう思い、ルナレイアは買いだめした。
「そういえば、ラナリーは剣とか鎧とかはいいの?」
向こうの世界のラナリーは、軽鎧を身に付け、小さい身体にも関わらず、大剣を振り回していた。その横で、勇者さまは片手剣に盾という装備だった。
「騎士団で支給されるから問題ないよ。ほかに買うものは?」
「特にないわ。……待って、レイはどこへ行ったの?」
ラナリーと手を繋いでいたはずだが、とあたりを見回すが、レイの姿はどこにもない。迷子にでもなってしまったのだろうか。
「もしかして、攫われでもしてしまった? とにかく、手分けして探しましょう」
「だめよ、ルナレイアは戦えないんだから、あたしと一緒にいて」
そう言われて、ルナレイアは押し黙った。しかし、思いを振り払い、ラナリーと一緒にレイを探すことにした。
屋台のおじさんや、買い物中のおばさまにレイの特徴を伝え、見かけなかったか聞いてみた。だが、レイの足取りはあまりつかめない。
そんな時、孤児と思われる少年が通りかかった。ルナレイアは、子供なら何か知っているかもしれないと思い、銅貨を1枚渡して聞いてみた。
「ねえ、わたくしみたいな銀の髪と金の瞳をした10歳位の女の子、このへんで見かけなかった?」
「せいじょさま? ぼくの孤児院にいるよ!」
ついてきて、と少年は走り出した。ルナレイアとラナリーはあとを追う。
「ここが、ぼくがすんでる孤児院だよ!」
「ありがとう。ここにレイがいるのね」
ルナレイアはお礼に銅貨をもう1枚渡し、ラナリーと孤児院に入った。入ると、中から声が聞こえてきた。レイが本でも読んでいるのだろう。
「こうして人間は、かみさまの力をいただき、魔法をつかえるようになったのです」
読まれているのは、『創世記―絵本版―』だ。教会から配布された、一家に一冊はある絵本で、誰しも一度は読まれている。
「よんでくれてありがとう、せいじょさま!」
ありがとう、と口々に言う孤児たち。レイも少しだけ微笑んで答えている。
「あ、ルナレイアとラナリー」
近づくと、ルナレイアに気づいたようで、名前を呼んだ。
「レイ、ここにいたのね、心配したわ」
「気づいたらはぐれてたから、見覚えがあった孤児院にきた」
「攫われたのかと思ったよ。でもここで安心した」
ルナレイアとラナリーは、レイの頭を撫でた。口ではいやだといいながら、レイは嬉しそうにしている。
「じゃあ、帰りましょうか」
ルナレイアがそう言うと、孤児たちは、ええー、と反論した。よっぽどレイのことが気に入っているようだ。
「またこんど、くるから」
「ほんとに?」
「……うん」
次にいつ来れるかは、わからない。魔王を討伐できるのがいつになるのか、わからないからだ。
それでもレイは、微笑んだ。
「みんなにお別れして、帰ろっか」
「ばいばい、みんな」
孤児院から出て、レイは少し寂しそうに手を振った。ここへ戻ってきたときは、この中の何人かは孤児院を出ているだろう。
「ばいばい、せいじょさま!」
またね、と手を振りあって別れた。三人は、王宮に戻った。