第一章 ―― 17

 冒険者ギルドから出たルナレイアたちは、食料の調達のため、食べ物を売っている区域に来た。屋台なども出ていて、とてもいい匂いがする。

「いいにおい」
「おなかがすいてくるわ。ふたりとも、なにか食べる?」
「いいね、肉の串焼きがおすすめだよ」
「おにくにがて」

 まあそう言わずに、とラナリーは目に付いた串焼きの屋台で、串焼きを2本買った。1本がラナリーのぶんで、もう1本はルナレイアとレイのぶんだろう。ふたりとも肉はあまり好きではない。

「ふたりで1本でいいでしょ?」
「ええ、構わないわ。レイ、先に食べる?」
「食べる」

 レイは少し嫌そうな顔をしながら、串焼きを食べた。

「まずくはない」

 レイが食べた肉は、いままで生臭いものが多かった。そのせいで苦手意識があった。だが、これはそこまで生臭くはない。少しだけ気に入った。

「そうね、おいしいわ」
「ルナレイアは普通に食べれるんだよね、お肉」
「ええ、好んでは食べないけれど」
「あるきながら食べるの、新鮮。こんなこと、いままでしたことない」

 不思議そうに肉を食べながら、歩く。

「おいしかった。あの串焼き、たくさん買わない?」
「だめよ、包むものがないもの。ユスティとシドのぶんを買うくらいなら問題ないけど、たくさんはだめ」
「そっか、残念」

 本当に残念そうな顔をするラナリー。そんなに美味しかったのだろうか、あの串焼きは。

「とりあえず、野菜をたくさん買うのよ」

 ルナレイアは呟いた。

「それ、ルナレイアの好みが振り切ってるよね!?」

 理解し難くて、理解はできるが納得し難くて、ラナリーは叫んだ。
 それもお構いなく、ルナレイアは野菜をたくさん買い始めた。やさいが一番、と、レイも同意した。
 キャベツに似たルシュ、トマトに似たラト、トマトに似たカーリ、たくさん買い、銀貨10枚も使ってしまった。

「そんなに買ってどうするのよ」
「食べるに決まってるじゃない」

 当たり前でしょう? とラナリーを見るルナレイア。

「はあ、とりあえず野菜はいいから、調味料とかお肉を買いましょう」
「お肉は現地調達でいいんじゃない? みんな強いから、たくさん狩ってくれるでしょう」
「それもそうね、次は調味料でも買いましょう」

 調味料とはいえ、塩と胡椒くらいしか買うものはないが、欠かしてしまってはいけないだろう。そう思い、ルナレイアは買いだめした。

「そういえば、ラナリーは剣とか鎧とかはいいの?」

 向こうの世界のラナリーは、軽鎧を身に付け、小さい身体にも関わらず、大剣を振り回していた。その横で、勇者さまは片手剣に盾という装備だった。

「騎士団で支給されるから問題ないよ。ほかに買うものは?」
「特にないわ。……待って、レイはどこへ行ったの?」

 ラナリーと手を繋いでいたはずだが、とあたりを見回すが、レイの姿はどこにもない。迷子にでもなってしまったのだろうか。

「もしかして、攫われでもしてしまった? とにかく、手分けして探しましょう」
「だめよ、ルナレイアは戦えないんだから、あたしと一緒にいて」

 そう言われて、ルナレイアは押し黙った。しかし、思いを振り払い、ラナリーと一緒にレイを探すことにした。

 屋台のおじさんや、買い物中のおばさまにレイの特徴を伝え、見かけなかったか聞いてみた。だが、レイの足取りはあまりつかめない。
 そんな時、孤児と思われる少年が通りかかった。ルナレイアは、子供なら何か知っているかもしれないと思い、銅貨を1枚渡して聞いてみた。

「ねえ、わたくしみたいな銀の髪と金の瞳をした10歳位の女の子、このへんで見かけなかった?」
「せいじょさま? ぼくの孤児院にいるよ!」

 ついてきて、と少年は走り出した。ルナレイアとラナリーはあとを追う。

「ここが、ぼくがすんでる孤児院だよ!」
「ありがとう。ここにレイがいるのね」

 ルナレイアはお礼に銅貨をもう1枚渡し、ラナリーと孤児院に入った。入ると、中から声が聞こえてきた。レイが本でも読んでいるのだろう。

「こうして人間は、かみさまの力をいただき、魔法をつかえるようになったのです」

 読まれているのは、『創世記―絵本版―』だ。教会から配布された、一家に一冊はある絵本で、誰しも一度は読まれている。

「よんでくれてありがとう、せいじょさま!」

 ありがとう、と口々に言う孤児たち。レイも少しだけ微笑んで答えている。

「あ、ルナレイアとラナリー」

 近づくと、ルナレイアに気づいたようで、名前を呼んだ。

「レイ、ここにいたのね、心配したわ」
「気づいたらはぐれてたから、見覚えがあった孤児院にきた」
「攫われたのかと思ったよ。でもここで安心した」

 ルナレイアとラナリーは、レイの頭を撫でた。口ではいやだといいながら、レイは嬉しそうにしている。

「じゃあ、帰りましょうか」

 ルナレイアがそう言うと、孤児たちは、ええー、と反論した。よっぽどレイのことが気に入っているようだ。

「またこんど、くるから」
「ほんとに?」
「……うん」

 次にいつ来れるかは、わからない。魔王を討伐できるのがいつになるのか、わからないからだ。
 それでもレイは、微笑んだ。

「みんなにお別れして、帰ろっか」
「ばいばい、みんな」

 孤児院から出て、レイは少し寂しそうに手を振った。ここへ戻ってきたときは、この中の何人かは孤児院を出ているだろう。

「ばいばい、せいじょさま!」

 またね、と手を振りあって別れた。三人は、王宮に戻った。

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