第一章 ―― 12

 ノックをし、ユスティの部屋に入った。

「こんにちは。ルナレイア。……って、人数多いね?」
「わたくしもそう思います。ですが、護衛が2人に、侍女が1人と考えれば、普通なのではないかと思えてきたところです」
「そっか、それならまあ、許容範囲内かな。まあ、座りなよ」

 ルナレイアはユスティの向かい側に座り、シドとラナリーは扉の前に待機、リサはルナレイアの後ろに立った。

「立っているのもなんだか変だね。旅の仲間になるんだろう? 場所を変えて、みんなで話し合おうか」

 そういうことで、隣の部屋に移動した。隣の部屋は、談話室となっており、大きな円卓の周りに、椅子が置かれている。
 扉から一番遠い位置にユスティ、その右側にルナレイア、その隣にシド、ユスティの左側にラナリーが座った。

「私はお茶の準備をしてきますね。あと、昼食も運ばせるように言ってきます。そろそろそんなお時間でしょう?」
「うん、お願い」

 リサは出て行った。

「じゃ、何を話す?」
「ユスティさま、そこからですか? とりあえず、改めて自己紹介でもしますか?」
「そうだね、それがいいや。僕からしよう」

 こほん、と咳払いをするユスティ。

 そういうユスティの髪色は淡い緑で、瞳の色が青い。風と水の属性が得意なのは、このせいなのだろうか。身長はルナレイアの頭一つ分高いくらいだ。

「では次はわたくしが。ルナレイア・リュミエール、17歳です。ご存知だとは思いますが、聖女です。得意な魔法は光魔法。他は使えません。よろしくお願いします」

 ルナレイアはにっこりと微笑んだ。ユスティとシドは、それに見惚れた。

「じゃ、次はあたしね。ラナリーよ。平民だから名字はないわ。15歳。得意な属性は火と、それから土。だけどできるのは初級魔法くらい。よろしく」

 ラナリーの身長はルナレイアよりも少し低いくらい。童顔で、13歳くらいにも見える。

「では最後は私ですね。シド・ル・レインシールです。歳は22、ユスティと同じですね。子爵の位をいただいています。得意な属性は水。かろうじて使えるのは風です。よろしくお願いします」

 シドの髪色はとても濃い青だ。瞳の色も青い。彼の持つ水の力は、とてつもないものなのだろう。

「シドも一緒に旅をすることになったんだね」
「ああ、よろしく頼む」
「こちらこそよろしく。ラナリーさんも、ルナレイアも、改めてよろしくね」

 よろしくお願いします、と、返事を返す2人。
 唐突に、ルナレイアは手を叩いた。

「そうです、やはり敬語はやめにしませんか? 名前も呼び捨てにしてしまいましょう。仲間になるのですから。だめでしょうか?」
「それがいいね。そうしようか。シドも大丈夫でしょう」
「……努力する」

 ルナレイアは、シドに敬語をやめてもらうということを、諦めていなかったようだ。

「じゃ、あたしも遠慮なく」

 ラナリーも頷いた。

「慣れるまでは仕方ないです……けど、そうした方が早く打ち解けられると思うので……思うの」
「ふふ、ルナレイアが一番苦労しそうだ」
「そんなことありません!」
「ほら、敬語」

 むむ、と、ルナレイアは唸った。

「……ユスティは意地悪です!」
「しかたないよ、ルナレイアは可愛いから」
「なっ」

 ぽふっ、と音がするくらい、ルナレイアの顔が赤くなった。

「も、もう。からかうのはやめてください! そんなことより、レイさんの件なのですが」
「敬語。まあそれはともかく、大神殿側には承諾を得てる。昨日の件も陛下から話をしてもらったから、大丈夫。ただ、レイがルナレイアを気に入るかはわからないな」
「そうですか、わかりました。仕方ないです……仕方ないわ」

 途中で気がついたように訂正した。

「まあ、とりあえず会いに行ったら変わるかも知れないし、行ってみる? あの子、王宮の中はよく知らないから、連れ出したらきっと喜ぶよ」
「そう、じゃあ行ってみましょうか。ラナリーも、シド……も、一緒に旅をするなら会ってみないと」
「そうだね、じゃあ、教会に行こうか。その前に、何か質問ある? レイのこととか」

 シドが思い出したように、口を開いた。

「そういえばユスティ」
「なに?」
「先ほど、刃物を持った男に、ルナレイアさ……ルナレイアが襲われた。もちろん撃退したが。その男は、衛兵にあずけている。これでよかったか?」
「うーん、あとで陛下に言っておくとして、それでいいよ」

 そんなことより、と続けた。

「ルナレイアは、怪我はない?」
「ええ、問題ないわ」
「ほんとに?」
「本当よ。というか、例えば腕を切られたとしても、自分で治せるから大丈夫よ」

 ユスティは少しだけ真剣な顔になって、言い聞かせるように言う。

「あのね、ルナレイア。僕は君が少しでも傷ついたら嫌なんだよ。たとえ治せるとしても。どうしてだかわかる?」
「……どうして?」

 ルナレイアは、考えてみたがわからなかった。

「君が傷ついたら、痛いだろう? 僕は、それが嫌なんだ」
「……よくわからないわ」
「そっか、じゃあ、ひとつだけ覚えていて欲しい。君が傷ついたら、僕は悲しい、ってことを」

 わからないわ、と、呟くルナレイア。ラナリーとシドが、口を開いた。

「ルナレイア、あたしも、ルナレイアが傷ついたら悲しいよ」
「私もだ。君が傷つくのは、嫌だ。それに、ルナレイアだって、例えばユスティが傷ついたら嫌じゃないか? たとえ、治せるとしても」
「……それもそうね。わかったわ。ありがとう、ラナリー、シド」

 会話が途切れたところで、コンコン、と、扉がノックされた。

「どうぞ」
「失礼いたします。昼食をお持ちしました」

 見慣れない料理人姿の男性が、昼食を運んだ。今日の昼食は、鳥のような肉を焼いたものや、サラダがたくさんだった。ラナリーの好きなものと、ルナレイアの好きなものを取り入れたのだろう。

「キリもいいところだし、食べようか」
「ああ、そうだな」

 ユスティはまんべんなく、ラナリーとシドは肉ばかりを、ルナレイアは野菜ばかりを食べる。

「お肉ばかりじゃ体に良くないわ。ちゃんと野菜も食べて」
「そういうルナレイアこそ、お肉も食べたほうがいいよ。そんなに細いんだから」
「そうだな、折れてしまいそうだ」

 和気あいあいと、食事を進めた。ルナレイアに肉を食べさせようとしたり、ラナリーとシドに野菜を食べさせようとしたり、それを見るユスティも参加したり。
 一緒に食事をするだけだが、かなり仲が深まった。

「そろそろ食べ終わったし、教会に行こうか」
「そうね、そうしましょう」
「ルナレイアの小さい版、楽しみ」
「あんまり似ているからって、笑わないでね」
「笑わないわよ」

 雑談をしながら、教会へ向かった。

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